BLW離乳食とは?論文を参照してわかったメリットとデメリットについて

BLW(Baby Led Weaning)とは何か

イギリスの助産師であり保健師であるジル・ラプレイ氏によって提唱された離乳法です。 2008年にBLWの著書を出版し、現在までで20ヵ国以上に翻訳/出版されています。日本でも2019年にようやく翻訳書が出版され、それ以来、急速に注目されている離乳法となっています。

「自分で食べる!」が食べる力を育てる:赤ちゃん主導の離乳(BLW)入門
Gill Rapley
小児科医、看護師、歯科医、保健師、助産師、栄養士、保育士……子供の成長をサポートするプロがいま熱く注目する離乳法――BLW(baby-led weaning 赤ちゃん主導の離乳)のすべてをわかりやすく解説。
Amazon

従来の離乳食は食物をピューレ上にしてスプーンにのせ、赤ちゃんに食べさせる(Spoon feeding)アプローチを取ります。いわば親が主導する離乳食です。 一方、BLWは赤ちゃん自身が固形物を自分の手に取って食事をすることを促すアプローチのことを指します。これが赤ちゃん主導の離乳食(Baby Led Weaning)と呼ばれているのです。

本記事でわかること

多くの親にとって、BLWがなぜこれほどまでに世界で浸透し、共感を得ているのか疑問に思う人も多いのではないでしょうか。赤ちゃんに固形物を食べさせるなんて本当に大丈夫なの?と率直に不安に感じる人もいるでしょう。

本記事では、ジル・ラプレイ氏のBLWに関する著書と、アメリカ/ニュージーランドなどのBLW研究論文を引用してBLWのメリット・デメリットを説明します。

また、筆者の家庭でもBLWを実践して、子供を育てています。 2012年のニュージーランドのオタゴ大学の調査研究によれば、BLWを実践する親は、子供が幸せで健康な姿を見ることで、当初抱いていたBLWのリスクに関する懸念が減少し、他の親にも勧めるようになる傾向があるという調査結果が出ています。[ 1 ]

この結果は、BLWの実践にはポジティブな魅力があることを表していると思います。そして、筆者自身も当事者として非常に気持ちがわかります。 ただ一方で、BLWを実践する当事者の声だけを聞いていても、客観的なBLWの評価にはならないということも表しています。

そこで、本記事では、個人の主観・経験則とは極力切り離して、BLWのメリット・デメリットをエビデンスを引用しながら解説していきたいと思います。特にBLWの安全性に関して、「何を根拠に語られているのか・情報源は何なのか」が気になる人は是非ご一読ください。

現状、BLWに関する情報源は日本語のリソースは少なく、一部の医療従事者によるクローズドな情報発信がまばらにある程度です。そのため、本記事はより多くの人が、BLWについての認識を正しく持ち、BLWを実施するか否かを判断するための、オープンかつ有益な情報となることを目指しています。修正点や疑義があればご指摘のコメントをいただければ幸いです。

免責事項(Disclaimer)
筆者は、乳幼児の専門家でも医療従事者でもありません。この分野に関する肩書きは一切ありませんので、論文の情報を全ての情報源として当記事を書いています。

BLWのメリットとデメリット

BLWを実践することにはどのようなメリットがあり、そしてまたどのようなデメリットがあるのか、提唱者であるジル・ラプレイ氏の著書を参考にしつつも、それ以外の研究機関の調査内容を加味して、筆者が調べた内容を紹介したいと思います。

BLWのメリット

BLWに関しては世界中の専門家も注目・評価しており、BLWが良いか悪いかという議論はほとんどされていません。 どのようにすれば、BLWのメリットを生かした上で安全に実践ができるのかについて、調査研究が進められてる段階です。
  • 将来の肥満のリスクが低下する?
  • 食事が楽しいものであると認識する
  • 家族と一緒の食事を経験する
  • 安全な食べ方を学べる
  • 好奇心を刺激できる
  • 手と目の連動や指先の器用さを向上させる
  • 自立心や自信を育む
  • 家族の食事・食材の取り分けで済む

将来の肥満のリスクが低下する?

赤ちゃんが食べる量を自分で決めることが身に着くようになり、エネルギーの自己調整機能が改善され、これにより肥満のリスクが低下するのではという可能性が示唆されています。実際に2012年の小規模な調査ではBLWの乳児の方が肥満の発生率が有意に低いと結論付けられました[ 2 ]。その裏付け調査でも、肥満時の割合がBLWに比べて従来離乳食の方が多いという結果となり、BLWが子供時代に健康的な食品の選択を促進し、肥満から子供を保護するという考えを擁護しています[ 3 ]。

しかし、別の研究者が2017年に調査した結果では、BMIとエネルギーの自己調整機能の間に有意差を見つけることが出来ず、BLWが肥満を防げるかどうかを確認するには、さらなる研究が必要だと結論付けられました[ 4 ]。

現状の研究結果を見ると、BLWが肥満予防になるかどうかは科学的には立証されておらず、さらなる追加検証が必要だと言えます。 ただ、肥満率の増加が著しく、社会問題になっている欧米諸国では、BLWで肥満率が改善されないかどうか期待を込めて、注目されているのです。

食事が楽しいものであると認識する

赤ちゃんは自分自身で食材を目の当たりにし、何を、どのくらいの量、どうやって、どれだけ時間をかけて、食べるのかを全て自分で決めます。赤ちゃん自身が積極的に食事に関わることで、食事は楽しいものであると認識できます。椅子に座らされて、親がスプーンで決まった量を与えられるだけでは、この楽しいという感覚は養われないのではないでしょうか。

家族と一緒の食事を経験する

従来の離乳食では赤ちゃん専用の料理を用意する必要があり、一緒に食卓を囲み、同じものを食べるという経験は出来ません。 赤ちゃんの時から、家族団らんに加わることで、家族関係・社交能力・言語発達などに良い影響があります。

安全な食べ方を学べる

早くから手掴み食べを実践する赤ちゃんは、食べ物を口の中に入れる前にじっくりと観察します。また食べ物を噛んだり、口の中で移動することを練習できるので、食べ物の扱いがうまくなり、結果的に安全な食べ方を習得できるのです。

好奇心を刺激できる

赤ちゃんは手と口を使って、食材の形・重さ・触感を学ぶことができます。知育おもちゃでできることは、食べ物を手で掴むことで学習できでしょう。

手と目の連動や指先の器用さを向上させる

BLWをする赤ちゃんは、食べ物を指で挟み、場合によっては食べ物をじっくり観察してから、口に運ぶ動作を繰り返します。これによって手と目の連携を学び、さらに指先の器用さの発達を促します。

自立心や自信を育む

自分の力で食事をすることで、赤ちゃんは自分の判断と能力に自信を持つようになります。何かを口に運んで、味や食感を得られるという成功体験によって、自信を得て、自尊心を高めることができるのです。

家族の食事・食材の取り分けで済む

赤ちゃん用にペーストにする作業が必要なくなり、家族共に同じ食材を食べることができるので、慣れてしまえば非常に簡単に赤ちゃんに提供できるようになります。

BLWのデメリット

デメリットというよりも、BLW実践の際に気をつけるべき注意事項とも言えます。論文の引用が多いため、長いですが、個人的にはメリット以上に重要な内容となります。

  • ぐちゃぐちゃに散らかす
  • 窒息/吐き気が起きやすい?
  • 摂取する栄養価に偏りが生まれやすい?

ぐちゃぐちゃに散らかす

赤ちゃんが手掴みで食べたあとは、必ずテーブル・エプロン・床がぐちゃぐちゃになります。当然のことながら食事は毎日子供に提供するものです。親がストレスに感じたまま、継続することはおすすめできません。ストレス軽減ができるグッズをご利用ください。

PR:おすすめの離乳食グッズは?
お皿のひっくり返しを防止!

吸盤付き竹製プレート

椅子とテーブルの間を覆って食べこぼし防止!

ハイチェアでもダイニングでも使える2wayエプロン

テーブルの上の汚れ防止!

大きなシリコンマット

窒息/吐き気が起きやすい?

BLWは従来の離乳食に比べて、窒息(食材を喉につまらせること)がおきやすいのではないかという懸念があります。 窒息に対するリスクというのがBLW最大の関心事と言えるでしょう。窒息に関しては3つの代表的な調査研究があるため、それらを紹介したいと思います。 また、ここで「吐き気」と表しているのは英語での「Gagging」を指しています。日本語の「誤嚥ごえん」が「Gagging」と同じ意味を指しているのか確証が持てなかったため、「吐き気」と表していることに留意ください。

窒息と吐き気の違い

まず、窒息と吐き気の違いをしっかりと認識することが重要です。下記の定義の違いと症状の違いを理解するようにしましょう。

窒息の定義(Choking)
呼吸が阻害されることによって血中酸素濃度が低下し、二酸化炭素濃度が上昇して、脳などの内臓組織に機能障害を起こした状態をいいます。
窒息は気道の完全な閉塞として定義されます。空気が気道を通過できないため、窒息している赤ちゃんはほとんど音がしません。赤ちゃんは非常に苦痛を感じたり、喉をつかんだり、青くなることがあります。窒息は通常、介護者が介入して食物を気道から押し出すことを要求します。

窒息の症状:
  • のどを押さえる、口に指を入れる
  • 声を出せない
  • 呼吸が苦しそう
  • 顔色が急に青くなる

引用:「えっ?そんな小さいもので?」子供の窒息事故を防ぐ! (政府広報)
吐き気の定義(Gagging)
食べものまたは異物が、何らかの理由によって、誤って気管に入った状態で、「むせる」、「せき込む」、「息苦しくなる」等の症状を伴うことが多い。
吐き気は、食べることを学んでいる赤ちゃんの通常の反射反応です。食べ物が口の後ろに移動すると、吐き気が起こり、赤ちゃんが咳をして、はねて、食べ物を再び口の前に戻します。窒息とは異なり、吐き気は通常騒々しいです。

吐き気の症状:
  • 目に涙を浮かべる
  • 舌を前に押し出すか、外に出す
  • 食べ物を喉から前に出そうとして、ムズムズと動き、時には嘔吐する

引用:Supplemental Information (A Baby-Led Approach to Eating Solids and Risk of Choking
2013年の小規模調査結果

まず、ニュージーランドオタゴ大学の2013年の調査結果では、BLWの方がリスクが高いということは実証されず、BLWの場合も、従来の離乳食の場合も同等程度の窒息リスクを負っているとされました。[ 5 ]

調査機関 オタゴ大学、人間栄養学科(ニュージーランド)
調査規模 199人
調査方法 母親へのオンライン調査
懸念事項 母親ごとの窒息と吐き気の定義の混同
  従来離乳食 BLW
窒息 31% 31%~40%
吐き気 70.7% 58.8%~81%

ただし、上記の調査は全体200人程度の小規模調査のためこの調査をもって断言は出来ません。また、母親が窒息と吐き気の違いを認識できたかどうかが疑わしく正確な数値とは言えない可能性が指摘されています。

2016年の小規模調査結果

その後、2016年に同大学が統計的手法で再度調査した結果でも、BLWの乳児と、従来離乳食の乳児で窒息のリスクの差は見られないとされました[ 6 ]。この調査は、ランダム化比較実験という統計的手法を用いたBLWに関する論文の中では信頼のおける適正な調査手法を用いています。下記が調査の簡易サマリーとなります。

ただし、この調査を受けたBLW参加者はBLISSと呼ばれる安全対策を事前に指示・共有されていることに注意してください。具体的には「窒息リスクの高い食品リスト」「窒息と吐き気の違い」などを事前に研究者から共有を受け、BLISS研究助手による3回の家庭訪問を受けています。
※BLISSに関しては後半で詳細を説明しています

統計学上、どの月齢でも、従来離乳食とBLW(BLISS)で窒息率(1ヶ月内に少なくとも1回は窒息した率)の有意差はなかったようです。

調査機関 オタゴ大学、人間栄養学科(ニュージーランド)
調査規模 206人
調査方法 アンケートと毎日のカレンダー記入調査
少なくとも1回は窒息した
月齢 従来離乳食 BLW(BLISS)
6ヶ月 21.6% 18.1%
7ヶ月 8.4% 12.1%
8ヶ月 18.2% 14.7%
11ヶ月 16% 19.4%
少なくとも1回は吐き気を催した
月齢 従来離乳食 BLW(BLISS)
6ヶ月 80.7% 94.7%
7ヶ月 75.9% 78%
8ヶ月 81.8% 82.1%
11ヶ月 46.9% 45.2%

1点気をつけなければならないのが、従来離乳食とBLW(BLISS)とで窒息率(1ヶ月のうちに1回以上の窒息の率)と吐き気率(1ヶ月のうちに1回以上の吐き気の率)はリスクに差がないようですが、1ヶ月中の1人辺り吐き気平均数に違いが出ていることです。

乳幼児1人の1ヶ月あたりの吐き気(Gagging)平均数
月齢 従来離乳食 BLW(BLISS)
6ヶ月 9.4回 14.7回
7ヶ月 7.5回 7.9回
8ヶ月 9.4回 5.6回
11ヶ月 7.5回 5.8回

具体的には、黄色マーカーで示した通り、6ヶ月齢でBLW(BLISS)では、平均14.7回の吐き気が発生しており、従来離乳食の9.4回に比べると若干多くなっています。しかし、一方で7ヶ月~8ヶ月になると従来離乳食の方が若干平均数が増える結果となっているのです。

このことから、6ヶ月齢は、固形物を食べることに慣れていないため、BLW(BLISS)で平均吐き気回数が増える一方、次第に慣れることで7ヶ月-8ヶ月齢になると、従来離乳食よりも平均吐き気数は減ると理解することができると思います。

従来離乳食とBLWとで、窒息・吐き気率が変わらないのだとしても、6ヶ月齢のみではあるが、吐き気頻度が多いというデータは重要なインサイトだと思います。吐き気は正常な反射反応だという説明が良くされますが、ともすれば窒息になり得たかもしれないシグナルと捉えることもできると思いますので、注意が必要でしょう。BLWの安全性を語る上では「窒息率」という指標が良く出てきますが、この窒息率だけでBLWの安全性を語るのは不十分かもしれません。調査規模を増やしてさらなる追加検証が必要ではないでしょうか。とはいえ、調査母数を増やし、実際に窒息事故が起きるリスクを冒してまでBLWの安全性を研究する研究者は少ないと思います。この調査以上の適正な調査がなされる可能性は低いのではと想定しています。
2017年の大規模調査結果

この研究は、ジル・ラプレイ氏と共同の研究を度々行っているエミー・ブラウン氏の論文となります[ 7 ]。 2013年と2016年のオタゴ大学の調査に比べ1000人規模の大規模な調査となりましたが、BLISSほどの安全対策の指導による介入はなく、一回で完結したアンケート調査となります。

調査機関 Amy.Brown、スウォンジー大学人間健康科学部
調査規模 1151人
調査方法 アンケート
懸念事項 バイアス排除ができていない
  厳密なBLW ゆるいBLW 従来離乳食
窒息したことがある 11.9% 15.5% 11.6%
窒息した人の平均数 1.94回 1.73回 1.83回

この結果からわかるのは、厳密なBLWと従来離乳食とで窒息率は変わらないということ、BLWとピューレを混ぜたゆるいBLWに分類される人のほうが若干窒息率が高いということです。

ただし、過去の研究とは違い、月齢ごとの結果は示されておらず、あくまでも母親の記憶ベースの中で数ヶ月間の窒息の有無を回想させたものになります。また、調査されたのは窒息のみの数となっており、過去の研究で比較された吐き気(gagging)は計測されていませんでした。

また、この調査結果の問題点として、ユーザー属性の偏りと、バイアスが指摘されています。BLWのSNSコミュニティや専門サイトで対象ユーザーの募集をかけたため、BLWをより良くみせたいといった感情や、オピニオンリーダーの意見に影響を受けたユーザーが多いため、平均的なユーザーとは異なっている可能性があります。

研究者であるエミー・ブラウン氏自身も、論文の最後で、「これらのデータはBLWメソッドの安全性の重要な証拠として解釈されるべきではありません」と記載しており、論文としての質は他の論文に比べ相対的に高くないため、あくまでも参考値とすべきでしょう。

そして、この調査結果で得られた重要なインサイトの一つとして、ゆるいBLWに分類される人のほうが窒息率が高いという点があります。この点に関しては、興味深い論考がなされているので別記事にてまとめたいと思います。

3つの調査結果からわかること

これまで説明した3つの研究結果に共通するのは、BLWと従来離乳食とで窒息率に差は見られないということです。異なるグループ、異なる調査方法であっても、「窒息率に差がない」という結果が共通している点は重要な結果です。また、率は一緒でも、窒息回数に差は見られないのかと言う点でも、2017年の調査では差は見られません。一方、吐き気に関しては、2016年の調査では6ヶ月齢でのみBLWの方が平均吐き気数が多くなっています。吐き気は正常な反射反応ではありますが、窒息になり得たかもしれないシグナルと捉えると、最初の提供食品の選定は非常に重要だと考えます。

また、上記の研究内容は統計的手法で検証されたものですが、個人的には、この結果の数値がそのまま我々日本人にも適用されるのかどうか疑問が残ります。というのも、人種構成が公開されていた2016年調査対象の中でも、アジア人の割合は6%程で、人種や食環境などの違いが大きく、統計調査の前提条件が異なります。これら結果が日本人にもそのままスライドできるとは言い難い可能性があります。あくまでも調査対象となった集団の中で有意とされた結果でしかなく、参考値であると考えるべきかもしれません。

また、さらに注意したいのは、ジル・ラプレイ氏のBLW本では下記のように記載されている点です。

研究によれば、スプーンで与えるよりもBLWのほうが食べ物を喉につまらせる危険性は低い。けれども赤ちゃんが手づかみ食べをするのを見慣れていない多くのお母さんやお父さん、おばあちゃんおじいちゃんは喉につまらせるんじゃないかと不安になるようだ。基本的な安全対策を知っていれば、BLWで喉を詰まらせる可能性はむしろ低い。

ジル・ラプレイ氏が引用している研究は、上記で紹介している2016年のもの[ 4 ]と同じです。 この論文では、「スプーンで与えるよりもBLWのほうが食べ物を喉につまらせる危険性は低い」とまでは言っておらず、ジル・ラプレイ氏の著書の書き方では誤解を招くと思います。もしくは、日本語の誤訳の可能性が高いです。

あくまでも、「窒息率でみるとBLWは従来離乳食と同じリスクを持っている」という理解を持つようにしましょう。「BLWの方が安全・危険性が低い」というのは拡大解釈ですので、認識相違が無いように気をつけましょう

結論、BLWは従来離乳食と比べて、窒息が起きやすいということは実証されていません。そのためリスクはどちらも同じと考えましょう。ただし、窒息率(1ヶ月辺りに1回以上窒息する確率)という指標では同じという意味であり、6ヶ月齢でのみ1ヶ月あたりの平均吐き気回数はBLWの方が多いため、BLW実施初期は食材の提供方法に注意が必要です。また、2016年の調査ではBLISSと呼ばれる安全対策指導を徹底した上で、リスクは同じという結果であるので、むしろ安全対策の重要性が示されたと言えます。そして、全ての調査に共通して、欧米人が主な対象の研究であることは留意すべきでしょう。 筆者個人としては、「BLWと従来離乳食でどちらが安全ですか?」という質問であれば、どちらも安全とは言い難いですと答えますが、実践する親のBLWに対する理解度が浅かったり、期待値が高すぎる場合は注意が必要だと思います。とはいえ、BLWを過剰に危険視する必要はないと考えます。

摂取する栄養価に偏りが生まれやすい?

赤ちゃん自身が食べるものを決めるBLWでは、従来の離乳食に比べて必要な栄養価に偏りが生まれやすいのではないかという懸念があります。6~8ヶ月の赤ちゃんを対象にニュージーランドのオタゴ大学が実施した2016年の調査では、BLWをする赤ちゃんは、従来の離乳食の赤ちゃんに比べ、脂肪と飽和脂肪の摂取量が多く、鉄・亜鉛・ビタミンB12の摂取量が少なくなっていたというのが報告されました。[ 8 ]

6ヶ月を過ぎると、母乳育児をしている場合は特に、赤ちゃんは鉄分不足になってしまうので、鉄を含む離乳食を意識的に摂取する必要があります。BLWでは赤ちゃんが鉄を含む食材を食べない場合、鉄分不足になってしまいやすいのです。

また、欧米では大半の家庭で従来の離乳食として、鉄分が豊富に入ったシリアルをスプーンで食べさせるのが一般的となっている背景があります。BLWを行う親は、このシリアルを提供する頻度が減ったことが大きな要因で、BLWの子供が鉄分不足になりやすいという結果が出たと考えられています。

一方、日本では、鉄分入りシリアルなどを提供する文化や指導はほとんどありませんでした。そのため、意識的に鉄分を摂取しなければ、従来離乳食であろうとBLWであろうと鉄分不足になってしまうことは念頭にいれておきましょう。
※日本では、2019年3月の「授乳・離乳の支援ガイド」改定で生後6ヶ月以降の鉄分摂取の重要性が記載されました。

必要な栄養分に偏りが生まれる可能性があるというデメリットを補完するために、意識的にエネルギーや鉄分を含んだメニューの提供を行うようにしましょう。

窒息リスクと栄養不足リスクを解消するためのBLWの取り組み

ここまでメリットとデメリットをまとめてみましたが、メリットでは主に赤ちゃんの食育として魅力的な言葉が並ぶ反面、デメリットでは親が心配になるような事柄も指摘されていることがわかると思います。 もちろん、BLWは従来離乳食に比べて危険であるという明確なエビデンスは出ておらず、必要以上に心配になる必要はありません。 しかし、BLWを実践するにあたっては、メリットだけに目を向けるのではなく、離乳に関して親が正しい知識を学び、正しく怖がることが必要であると考えています。

修正されたBLW: BLISSとは?

ジル・ラプレイ氏が提唱した初期のBLWではなく、特定のルールを付け加えた「Baby-Led Introduction to SolidS (BLISS)」を推奨すべきではないかというニュージーランドのオタゴ大学の2015年の調査結果をご紹介したいと思います。 [ 9 ]

BLISSアプローチの基本内容

  • 乳幼児が手に取り、自分で食べられる食べ物を提供する(従来のBLWと同じ)
  • 毎食ごとに1つの鉄分豊富な食品を提供する
  • 毎食ごとに1つの高エネルギー食品を提供する
  • 乳幼児の発育年齢に適した方法で調理された食品を提供して、窒息のリスクを減らし、窒息リスクの高い食品として記載されている食品を提供しないようにする

保護者向けの具体的な推奨事項

  目的:鉄分豊富な食品の摂取量を増やす
  • 毎回の食事に鉄分豊富な食品を提供することを奨励しました(食品リストは下記参照)
  • 食品の鉄含有量を増やすためのアイデアが提供されます(たとえば、鉄強化乳幼児用シリアル)
  • 鉄分を含む食品(総鉄分が多い赤肉、ヘム鉄、および非ヘム鉄の吸収を高める「肉/魚/鶏肉」を含む)のレシピと食品のアイデアが提供されます
  • 生後6か月からBLWを開始するようにアドバイスしました

目的:低エネルギーの結果として成長が鈍化するリスクを減らす
  • 各食事で少なくとも1つの高エネルギー食品を含む、さまざまな食品を提供するよう奨励されました(食品リストは下記参照)
  • エネルギーが高く、乳児が簡単に自給できる食品のアイデアとレシピが提供されます
  • レスポンシブフィーディングを実践するよう奨励され、次のことを確認します。食事環境は気を散らすものはほとんどなく(例:テレビがない)、介護者は乳児の空腹と満腹の手がかりに注意を払い、介護者は迅速かつ支援的に乳児に対応します
  • 子供が病気のときや回復中に「簡単な」食品やより頻繁な母乳を提供することを奨励しました

目的:窒息のリスクを減らす
  • 乳児に提供する前に食品を試食して、口の屋根の舌で押しつぶすのに十分な柔らかさになっていることを確認するようにしてください
  • 避けるべき特定の食品のリストが提供されます(たとえば、生リンゴ)(食品リストは下記参照)
  • 口の中でパン粉を形成する食品、固い食品、小さい食品、および円形(コイン)形の食品も避けるようにアドバイスされています
  • 吐き気と窒息を区別する方法、および窒息が発生した場合の対処方法など、食事に関する安全性について説明しました
鉄分豊富食品に分類される食品
  • 牛肉
  • 鶏肉
  • 豚肉
  • ハム
  • 子羊
  • ベーコン
  • 肝臓(パテ含む)
  • ソーセージ
  • サラミ
  • 鉄強化乳幼児用シリアル
  • ベイクドビーンズ
  • レンズ豆
  • フムス
  • ひよこ豆(フムス以外)
高エネルギー食品に分類される食品
  • アボカド
  • バナナ
  • カボチャ
  • じゃがいも
  • サツマイモ
窒息リスクの高い食品に分類される食品
  • 生野菜(にんじん、セロリ、サラダの葉など)
  • 生リンゴ
  • 煎餅、ポテトチップス、コーンチップ
  • ナッツ類丸ごと
  • ドライフルーツ(レーズン、クランベリーなど)
  • さくらんぼ、ぶどう、果実、チェリートマト
  • エンドウ豆、トウモロコシ
  • キャンディー(お菓子やキャンディーなど)
  • その他の硬い食品

実際に、BLWとBLISSを行った赤ちゃんの比較実験では、上記の指示を受けたBLISSの赤ちゃんは、鉄含有食品が離乳食開始直後から、より多く提供され、窒息リスクの高い食品を提供する可能性が低くなったという結果が出ています。

また、特に「生リンゴ」は他の調査研究でも窒息原因となっている場合が多いようです。 これは、飲み込む前に噛んでどんどん口の中に溜まってしまうことが原因です。 筆者もこの情報を知らずに「生リンゴ」を提供して、子供が吐き戻した経験がありますので、生リンゴの提供には注意を払うか、提供を控えるようにしてください。

BLISSでは、毎食ごとに必要な食材を、ある程度強制的にルール化することで、親に対して強く意識変化を促す目的があります。BLISS研究チームは、BLWの実践を進める場合、親に対して「何をどのようにして」提供するか基本的な指示をしないと安全性を担保できないだろうと考えているのでしょう。

ジル・ラプレイ氏もBLISSの論文の結果を引用して、BLWの安全性を主張している以上、BLISSで示された指示内容はフォローすべきだと思います。

また、各国にBLWの民間資格が存在しますが、基本的にこのBLISSの内容をベースに内容が作られているようですので、BLISSの内容を知ることが何よりも重要だと思います。

BLWが非推奨となっている国

ここまで、BLWについてそこまで危険は大きくないという点をお伝えしましたが、実は、ニュージーランドではBLWは保健省が非推奨という公式声明を出しています。当記事で引用している論文で最も信頼できる調査を行っていたのは、ニュージーランドのオタゴ大学でした(個人の感想)が、そのニュージーランドではBLWは非推奨なのです。 理由は、鉄分やエネルギーなどの十分な栄養が得られない可能性や、窒息の可能性の増加にはつながらないという確たるエビデンスがないことを挙げています。また、肥満防止などの明確なメリットも明らかではない点もあげられています。

これは国としては非常に真っ当な判断だと思います。リスクも100%払拭されず、やるべき理由も明確では無い以上、BLWを専門家や国があえて推す理由は今のところないでしょう。(こういった背景を理解した)お医者さんや保健師さんがBLWについて、あまり積極的に情報発信しない理由はこの辺りにあるといえます。この声明は2018年に最終更新されており、「新たな信頼できるエビデンスが出ればレビューを行い、BLWへの判断はアップデートする」と記載しているので、ニュージーランドの保健省の判断は今後も参考になると思います。

また、日本の小児科医 伊藤明子氏が著書の「医師が教える 子どもの食事 50の基本」(出版年:2023年1月)という本にも、「離乳食を始めたら窒息事故に注意」というヘッドラインの章では下記のようにBLWについて言及されています。
一部でBLW(ベイビーレッドウィーニング=赤ちゃん主導型離乳食)が注目されています。赤ちゃん自身がいつ何を食べたいかを決めるというコンセプトは魅力的に感じるかもしれませんが、栄養失調・栄養障害になる例も多く、おすすめできません。
BLWについての言及はここのみでしたが、やはり、BLWというのは、従来離乳食よりも良いと言える明確なエビデンスがあるわけでないことから、医師という立場では薦められるものではないというニュアンスが汲み取れます。

こういったことから、BLWというのは、確立したメソッドではなく、ベジタリアンやビーガンのような、ライフスタイルの一種という立ち位置で考えるべきではないでしょうか。

BLWについての評価まとめ

BLWのメリット・デメリットを解説しました。 BLWのメリットには、食育的な観点、知育的な観点が含まれており、親にとっては非常に魅力的であると思います。

一方、デメリットでは、窒息リスクや栄養の偏りなどのリスクが挙げられます。 しかし、窒息に関しては、BLWと従来離乳食で窒息率に差がないことは3つの研究で共通して結論づけられているため、BLWを過剰に危険視する必要はありません

窒息ではなく、吐き気に関して、6ヶ月齢でのみ従来離乳食より多めということが判明した研究もあるため、BLWの実践にあたっては安全対策のフォローが必要です。 栄養の偏りに関しては、日本ではBLWに限らず乳幼児の鉄分不足が懸念されています。 BLWにおいても、鉄分豊富な食品を意識的に提供するようにしましょう。 また、これらのリスクを抑えるために生み出されたBLISSというアプローチがあり、当記事ですでに紹介した通りです。

また、ニュージーランド保健省の声明で非推奨となっているように、BLWは確立されたメソッドではありません。そのため、BLWに対して、過剰な期待を持つことも認識としては間違いです。 あくまでも目の前の自分の子供の反応を見ながら、何が一番良い離乳スタイルであるかをご家族で考えて、実践をするようにしてください。

本記事の内容が、多くのご家族にとって参考になるものになれば幸いです。
ここまで、お読み頂きありがとうございました。感想や、ご指摘などはコメントで頂けると幸いです。

引用

[1]Cameron SL, Heath AL, Taylor RW. Healthcare professionals’ and mothers’ knowledge of, attitudes to and experiences with, Baby-Led Weaning: a content analysis study. BMJ Open. 2012;2(6):e001542. Published 2012 Nov 26. doi:10.1136/bmjopen-2012-001542 Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3532980/ [Accessed 24th May 2020]

[2]Townsend E, Pitchford NJ. Baby knows best? The impact of weaning style on food preferences and body mass index in early childhood in a case-controlled sample. BMJ Open. 2012;2(1):e000298. Published 2012 Feb 6. doi:10.1136/bmjopen-2011-000298 Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4400680/ [Accessed 24th May 2020]

[3]Townsend E, Pitchford NJ. Baby knows best? The impact of weaning style on food preferences and body mass index in early childhood in a case-controlled sample. BMJ Open. 2012;2(1):e000298. Published 2012 Feb 6. doi:10.1136/bmjopen-2011-000298 Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4400680/ [Accessed 24th May 2020]

[4] Taylor RW, Williams SM, Fangupo LJ, et al. Effect of a Baby-Led Approach to Complementary Feeding on Infant Growth and Overweight: A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2017;171(9):838-846. doi:10.1001/jamapediatrics.2017.1284 Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5710413/ [Accessed 24th May 2020]

[5]Cameron SL, Taylor RW, Heath AMParent-led or baby-led? Associations between complementary feeding practices and health-related behaviours in a survey of New Zealand familiesBMJ Open 2013;3:e003946. doi: 10.1136/bmjopen-2013-003946 Available from: https://bmjopen.bmj.com/content/3/12/e003946.info [Accessed 24th May 2020]

[6]A Baby-Led Approach to Eating Solids and Risk of Choking Louise J. Fangupo, Anne-Louise M. Heath, Sheila M. Williams, Liz W. Erickson Williams, Brittany J. Morison, Elizabeth A. Fleming, Barry J. Taylor, Benjamin J. Wheeler, Rachael W. Taylor Pediatrics Oct 2016, 138 (4) e20160772; DOI: 10.1542/peds.2016-0772 Available from: https://pediatrics.aappublications.org/content/138/4/e20160772 [Accessed 24th May 2020]

[7]Brown A. No difference in self-reported frequency of choking between infants introduced to solid foods using a baby-led weaning or traditional spoon-feeding approach. J Hum Nutr Diet. 2018;31(4):496-504. doi:10.1111/jhn.12528 Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29205569/ [Accessed 24th May 2020]

[8]Morison BJ, Taylor RW, Haszard JJ, et alHow different are baby-led weaning and conventional complementary feeding? A cross-sectional study of infants aged 6–8 monthsBMJ Open 2016;6:e010665. doi: 10.1136/bmjopen-2015-010665 Available from: https://bmjopen.bmj.com/content/6/5/e010665.info [Accessed 24th May 2020]

[9]Cameron, S.L., Taylor, R.W. & Heath, A.M. Development and pilot testing of Baby-Led Introduction to SolidS – a version of Baby-Led Weaning modified to address concerns about iron deficiency, growth faltering and choking. BMC Pediatr 1599 (2015). https://doi.org/10.1186/s12887-015-0422-8 Available from: https://bmcpediatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12887-015-0422-8 [Accessed 24th May 2020]

コメント

タイトルとURLをコピーしました